木造防音室は木材を生かすことが重要

木造住宅など木造家屋の特長は大半を木材で構築するため、金属やコンクリートに比べて吸音性があることです。→木造防音室(ピアノ)
これは音響としては非常に重要な要素です。適度な吸音性と反射がバランスしてピアノなど楽器の演奏にマッチするのです。

弱点は遮音性がコンクリート構造に比べて劣る点です。ただし、これは同じ厚さで構築して防音材を使わない場合の比較です。
たとえば、厚さ200ミリ(外装、内装を含めて)のコンクリート構造と比較すると、木造住宅の従来構造に加えて約80~90ミリの防音構造を追加すれば同等の遮音性能が得られる点を考えれば、決して不利な構造ではないのです。

しかも費用対効果は木造のほうが総額で見れば良くなる場合が多く、適正な設計施工を行えば、木造住宅の防音室は音響・遮音性能のバランスが魅力の一つです。将来のリフォームもコンクリート住宅に比べてやりやすく、間取り変更にも対応できます。

ちなみに、床下の通気遮断や湿式コンクリート床増設などによる防音工事は、既存の木材土台や隣接部などの寿命を縮めてしまいます。
それは増設したコンクリート床から4年程度の間、水分が放出され続け、湿気で木材やボードが腐るからです。
木造住宅に対する無理な改造は建物の寿命を縮めてしまうのです。

石膏ボードの多用は木造音楽室には不適切

石膏ボードの遮音特性は概ね低音と高音域が弱点であり、ほぼ500Hzから1000Hz付近の周波数帯が得意です。これを理解したうえで限定的に使用すべきです。

多用すると反射音が強くなって音響が悪化するだけでなく、二重に張り付けても遮音効果はアップしないからです。低音と高音が弱点であるという状況は殆ど変化しないのです。
また、石膏ボードはスチールと同様に固体音(楽器の振動音など)をよく伝えるので、ピアノやマリンバなどの楽器には不向きです。

遮音設計マニュアル(指針)と補正の重要性

現在の「遮音設計マニュアル(指針)」は、30年以上も前に出版されたものをベースに改訂されています。
それは、解説されている遮音材や吸音材の説明を見れば明らかです。

建築業界の防音技術は、車や機械設備の分野に比べて遅れているし、使用されている素材の種類・製品が少ないです。
*他の分野で使用されているブチルゴム、高密度フェルト、ウレタン、樹脂などの制振材・吸音材の活用を見れば分かります。

例えば住宅などの防音室の制振材といえば、遮音ゴムしかありません。乾式浮き床工法には高密度グラスウールとピン構造として配される遮音ゴム(防振ゴム)しか使用しない専門業者が大半です。
それらは経年変化でクリープ現象によって、歪みが生じたり、遮音ゴムの硬度によって振動音を絶縁できないなど構造的な弱点を持っています。

ベースとなる遮音設計マニュアルの防音材や工法が古いため、それ以上のアイディアや製品・工法開発が遅れているのかもしれません。

一方で、古い遮音設計マニュアルで指摘されている「発泡断熱材による共振や遮音低下のリスク」などを無視した工法や設計仕様が、高気密断熱住宅のなかで横行しています。
*発泡材断熱・高気密工法は必ずしも遮音性に優れているわけではなく、あくまで断熱性能に特化したものです。

むしろ、従来型のグラスウール断熱材+ラスモルタル仕上げによる外壁構造のほうが遮音性に優れています。

古い音響・防音設計マニュアルは役に立たないのではなく、現在の技術者が実例や試験によって補正して新しい技術マニュアルとして確立すべきだと思います。
*古くても重要な定石、理論は継承すべきです。