音響重視型の木造ピアノ防音室(2016年11月号)

依頼された木造住宅の外壁がALCパネル(へーベルハウスと同様な工法)でしたが、音が響きやすく随所から音漏れしていました。
はっきり言って、窓の遮音性能よりも低い状態です。このパネルは通常、振動音など固体伝播音に弱く、音環境を悪化させることがあります。

この現場において、ピアノ防音室を構築することが依頼者のご希望でした。私は大半の音を封じ込めることは物理的に無理があると判断し、音響を良くすることで心地よい音漏れになる環境にすることを目標にしました。
この方法しか現実的なピアノ音楽室を構築することはできないと、方針を「標準的な防音性能+落ち着いて疲れない音響の実現」としました。
*遮音性能を過度に高めると反射音が響きすぎ疲れる。予算的にも無理がある。空間的な制約もある。
*これはツーバイフォー工法+ALCパネルの弊害です。基本的にツーバイフォー工法は、在来工法に比べて音がよく響き、とくに壁と床の共振が目立ちます。

まず、床の剛性を高め、適度な音響が得られるような工夫。共振しない壁と床の対策。加えて内窓+防音ドアによる開口部の対策。
天井も遮音性能を改善して、自宅内に音漏れが拡散される状況を半減させることを目標にしました。

これには防音材と軟質木製ボード、構造用合板、木材軸組をフルに活用して構築するしかないと思いました。壁の仕上げは、柔らかい合板・クロス仕上げとしました。
それとご家族に肌が弱い人が居られるということで、吸音材は大半をPET再生ウール(ポリエチレンウール)にして安全性を高めました。
揮発性接着剤は使わずに、水溶性のアクリル樹脂コーキング材のみ壁の内部に限定的に使用し、下地ボンドは木工ボンド点付けのみとしました。

部屋は出来る限り狭くしないという方針で、外壁側の防音壁を95ミリ以内としました。
*既存外壁のALCパネルが悪影響で大幅に遮音効果を下げていましたが、これを考慮してぎりぎりの厚さで設定しました。
*周辺が道路、一番近い隣家の玄関が3メートル以上離れているという状況を考慮しました。

以上の内容を考慮した防音工事完了後の効果として、ピアノ演奏中に外壁面から2メートル程度離れると、昼間はピアノ音はほとんど聴こえないというところまで軽減できました。
*音漏れの状況も心地よい響きで、ピアノの音色が良い感じです。
音響が非常にうまく行きました。依頼者は長時間ピアノ演奏をしても疲れないと喜ばれました。本当に良かったと思いました。