木造の戸建住宅の設計・施工で軽視されるのが断熱吸音材です。これに外装材や内装材が遮音対策を目的として意図的に新築やリフォームにおいて施工されるのですが、逆効果になる場合もあります。
ここでは、リスク回避のための留意点をいくつかご紹介したいと思います。
壁と天井の吸音材・空気層
空気層は、なにも吸音材など無いただの空間ですが、吸音層は通常、吸音材が充填された空間を指します。
防音設計では、この両者の扱いによって、周波数ごとに対応が変わってきます。ある周波数では役立つ空気層も、ある周波数では効果が出ないという現象が起こります。
このため、専門家でも、同じ厚さの空間に対する防音の考え方に大きな差が生じることもあります。
この差が、限られた戸建住宅の空間では、防音効果に大きな違いを生みます。たとえば、高音域であれば空気層が大きくなるほど効果が増しますが、100Hz以下の低周波帯の音においては、中途半端な空気層は逆効果になる場合もあります。
これが住宅の生活防音や狭い建物の防音室などの費用対効果に大きな差を生じさせる要因となります。
ちなみに天井裏や壁内に発泡断熱材を充てんすると、大半の周波数帯において遮音効果が大幅に低下しますので、要注意です。
外装材と内装材の音響・防音効果
戸外からの騒音を遮断したり、防音室から音漏れするのを軽減する目的で、外装材にALCパネル、内装材に鉛の遮音パネルを施工する事例がありますが、これは音の周波数帯によっては費用対効果は低いものになります。
また、音響的には反射音が強くなり、過度に響くので生活空間や防音室としても落ち着かない環境になり不快感が増します。
遮音パネル工法は、つなぎ目から比較的高い周波数の音漏れが目立つようになります。ALCパネルそのものは低音を透過するので、車のうなるような低い騒音には余り効果がありません。
費用対効果の高い仕上げとしては、従来型のラスモルタル仕上げに、内装は合板とPBのミックス型が考えられます。実際に、ある木造の新築住宅会社は、この仕様を採用して通常の木造住宅においてD-40を実現しています。
このような住宅であれば、薄い防音対策によってD-50レベルの遮音性能を実現するのは比較的簡単です。
建築士・建築家は木造住宅の遮音設計を知らない
ある建築家(大学の教授)が戸建住宅の防音対策を失敗して施主を怒らせてしまい、施主が防音職人へコンサルティングを依頼されました。
しかし、新築を改造するにはデザイン変更などを伴うため、設計を担当した建築家が、私の所へ遠方から有料コンサルティングにお出でになりました。
しかし、余りに音響・防音設計について無知なため、基本的なイロハから説明をしなければならず、大変驚いた経験があります。
しかも、その建築家は音楽教室を設計しており、大学で学生に建築計画・設計を教えているわけですから、学生のほうが心配になりました。
また、東京では私が再三注意したにも関わらず、現場の建築士(防音職人とは無関係)が、やってはいけない仕様・施工を木造防音室でやってしまい、その部分が弱点になって音漏れがひどくなりました。
この現場も施主が失望し、再度私にアドバイスを求められたのですが、結局、窓の部分だけ造り直しになりました。
このような事例は数多くあり、苦い経験をしましたが、建築士の見識の無さと勉強不足を痛感したものです。