一般的に良く使用される石膏ボードと吸音材だけで構築されたピアノ防音室の分析事例です。
石膏ボードと断熱材で造ったピアノ防音室
ある大手の住宅メーカーが音楽防音室とテナント専用に木造建物を設計施工したのですが、反響音が強い割に音漏れが目立つという、ほぼ最悪の防音室ができてしまいました。
石膏ボード12.5ミリを左右対称に2枚ずつ重ねて、薄い合板を捨て貼りにして施工したものですが、内部にはロックウールが吸音材として55ミリの厚さで充填されていました。
グランドピアノは低周波の30Hz~高い周波数の4200Hzにわたって幅広い音域の音を発する楽器です。これを上記のような低い周波数と高い周波数帯の遮音能力が低い素材を重ねて施工しただけの構造では、十分な防音をすること自体が無理なのです。
また、厚さ55ミリ(密度40k)のロックウールは吸音専用材ではなく断熱材の既製品です。しかも防湿フィルムに包まれた製品なので余計に吸音性が小さくなります。吸音材の選定も間違っているうえに、厚さも密度も足りないのです。
空気層を含めて界壁は180ミリ以上の厚さがある内壁なのですが、隣室や廊下に音がかなり漏れており、施主は音楽教室を始めるに当たり、非常に不安をもたれたのでした。
リトミックの音楽教室としても不適切な床構造
この防音室は床の構造にも問題があり、固体伝播音(子供の走る音、ピアノの振動音)が周りに響き渡る状況でした。
理由は、床下の束の本数が足りない、下地合板の厚さが薄いことなどによって、床剛性が一般の木造住宅と変わらない仕様になっていたことです。仕上げは普通の合板フローリングですから、かなり響きます。
これでは、ピアノ演奏にもリトミックにも対処できません。
隣室のテナントや廊下などに振動音も、かなり響き渡る状況であり、空気音と固体音の両方の音漏れが目立つようになっていました。
大手住宅メーカーが専門外の現場を安易に請け負ったことが問題でした。
改善するための音響・防音対策の方針
この音楽室を改善するにはどうしたらよいか、概要について述べます。
遮音性能を高めるには、石膏ボードの弱点である周波数帯において相乗効果が期待できる専用の防音材を重ねて施工し、木製ボードで仕上げることが有効です。
*木製ボードは2種類使用します。柔らかい製品と薄い製品を組み合わせます。
床は既存面に下地合板を補強することが望ましいですが、すでに防音ドアや物入れなどが施工されているので、扉にあたってしまいますので、改造が大掛かりになります。
その場合は、ピアノ演奏とリトミックをするスペースだけに、制振材とカーペットを敷いて防振対策と音響を和らげることを目的にして調整します。