防音は質量則と足し算では予測できない(2016年4月号)

相談者や建築業者が、重い石膏ボードを重ねて、遮音パネル(既製品)を貼り付けたが、思ったほど効果が感じられないと言います。
これは質量則のみで遮音効果を予測し、遮音パネルの弱点やつなぎ目の遮音欠損を見ていないからです。

空気層や吸音層をとらない重ね工法による防音効果の予測は、異なる遮音特性の素材・ボードを併用するのが原則であり、硬いボードなどの素材を単純に重ねても効果は限定され、狭い周波数帯ばかりの透過損失が向上するということになり、人間の耳には余り防音効果が改善されたようには聴こえないのです。

一般的な防音業者による工法は知識が古く、既製品の弱点を検証していないので、技術的なレベルが向上しない、問題点についても気づいていないというのが実情です。
とくに、木造の防音室や戸外からの生活防音では、上記のような内容を改善しない限り、薄い重ね施工による対策が構築できません。

私の知る限りでは、吸音層や空気層を設けないで音響・防音施工が適正に実施できる専門業者は、手前味噌ですが、防音職人と取引先の一部だけです。
私の音響・防音設計のキャリアは平成7年からですので、今年(平成28年)で約21年ということになります。マンション、木造住宅の防音室のほか、天井・床などの部分的な防音対策に取り組んできました。

古い遮音設計マニュアルでは、素材ごとの相乗効果について、まったく記載がないので自分の担当現場などで検証しながら経験としてストックするしか方法がないのです。
私は質量則を無視しているのではなく、これを踏まえたうえで、効果的な対策を生み出せるように、独自の音響・防音設計を補正しながら確立してきたのです。
*古い知識の原則的なものは変わりません。これをいかにして補正するかが専門家の技術です。
質量則も遮音効果の足し算も、必要条件があって初めて定石が成立します。

これが大きく差が出るのが木造防音室(楽器、オーディオ)とマンションの固体伝播音対策(ピアノの振動音、足音など)です。