質量則だけで防音設計が出来るなら(2021年10月号)

もしも、木造住宅や音楽室、マンションの防音設計が質量則だけで出来るならば、人間の技術者は不要です。

それは、AIに自動的に計算してもらうように、図面データや防音材の面密度・種類だけ入力すれば良いからです。

そこには、建物の構造的な特徴や音響的な配慮、防音材の周波数特性、コインシデンスなどの要素を加えて検討されないからです。

面密度だけで計算すると、周波数帯の弱点が改善されずに、質量則による右肩上がりの透過損失は、実際の現場では確保できずに、防音効果と計算式に大きな乖離を生みます。

また、現場の空洞部や軸組下地などの強度・剛性の状況を考慮しないと、想定外の共振が発生して遮音性能を大幅に低下させることもあります。

総合的な要素を評価しながら、現場の状況や用途に合致した音響を含めて、適切な防音設計を行うには、実践経験と経験則を踏まえた技術が必要です。生身の人間であるエンジニアが必要なのです。

特に木造建物は、質量則だけでは設計できません。詳細な施工要領も必要であり、機械的な計算式では対応できないのです。表層材を含めた木材の性質、空洞部など見えない空間の減衰効果や共振リスクの判断も同時に求められます。

AIだけで防音設計が出来るなら、我々専門業者・専門家は不要になるでしょう。そのような時代が来るかどうかは分かりませんが、少なくとも私が現役のエンジニアとして仕事をする時代は、人間の防音設計が不可欠だと思います。